歯の本数が足りない場合(先天欠損)の矯正治療
矯正治療を希望される方の中には生まれつき歯の本数が足りない方がいらっしゃいます。
欠損は、上の2番目の前歯、下の前歯や第二小臼歯でよく見られます。
歯の本数が揃っていないまま歯を並べても、正しい咬み合わせにすることができませんので、上下で本数を合わせたうえで矯正治療を行います。
歯の本数を合わせるには、欠損部分のスペースを確保して最終的にインプラントなどで歯を増やす方法と、抜歯する方法のいずれかがあります。矯正治療後の咬み合わせや顔立ちの変化、歯列の安定性などを考慮して、患者さんの希望も交えながら治療方針を決めていきます。
歯周病と矯正治療
歯周病は、細菌の感染によっておこる炎症性の疾患です。
進行すると歯を支える土台である歯槽骨が破壊され、骨の支持を失った歯は外力に耐えられず前歯が前傾するなどの位置異常を引き起こし、最終的には歯牙の喪失へとつながります。
歯周病で位置異常をおこした歯列に矯正治療を行うと、適切な咬合関係を再構築してさらなる咬合崩壊を防ぐことができます。
歯列が整ってプラークコントロールをしやすい口腔環境になるとともに、その後の歯科治療において、歯を削る量や神経を取るリスクを減らせることで今後の歯牙の寿命を伸ばし、患者さんのQOLの向上に大きく寄与できる可能性があります。
歯周病が進行し、外力に耐えられず前歯が前傾してきた。その結果、若い頃に比べ口元が著しく突出してきたことも気になる。診査の結果、上の前歯2本と下の前歯4本(×印)は状態が悪く保存不可とした。
治療開始の時期は?
歯ぐきに炎症が残ったまま矯正治療をすると歯周組織のさらなる破壊が進行すると考えられています。そのため歯周病の初期治療が終わり、炎症のコントロールと患者さん自身で充分にブラッシングができるようになってからでないと矯正治療を行うことはできません。
かかりつけ医と矯正医が連携して慎重に判断します。
治療の内容は?
矯正治療は通法どおり行います。
矯正治療が終わった後は、適宜かかりつけの一般歯科医で歯冠修復(差し歯治療など)を行います。
状態が悪く予後不良と判断される歯がある場合は抜歯し、状況に応じて矯正治療でスペースを閉じるか、矯正治療後の差し歯やインプラント処置で対応するかのどちらかにします。
①矯正治療開始:予後不良とされた前歯6本のうち、上下左右1本、計4本を抜歯し、隙間を利用して前歯を後退させる
②矯正治療がおわったところ
③予後不良の下の前歯を2本抜歯し、ブリッジ補綴(差し歯)
④矯正治療後2年
一般歯科医と矯正歯科医が連携し、放置すれば咬合崩壊する口腔環境を再生することで、患者さんの健康寿命を引き延ばすことが期待できます。
興味のある方、将来に不安のある方はお気軽にご相談ください。
なぜ矯正治療で歯が動くか?
前回は、矯正治療でなぜ歯が動くか、生体改造のメカニズムの観点から説明しました。今回はどうやって目的にかなった方法で歯牙移動をさせるか、装置の特性から説明したいと思います。
矯正治療では、上下の歯をきちんと咬合させるため、歯槽骨に埋まっている部分まで含めた歯の全体を動かします。動かすための力は歯の見えている部分にしかかけられない反面、歯の重心の位置は歯根の奥の方にあり、ほとんどの状況でかけた力に対して力学的にいうモーメント(回転)が発生します。そのため、歯の見えている部分に、ただ押したり引いたりする力をかけるだけでは、左の図のように歯は傾くようにしか動きません。
現在主流となっている矯正装置は、ワイヤーの力を歯の表面に装着したブラケットという装置を介して歯に伝えるものです。この装置は、歯根まで含めた歯の全体をコントロールできるように作られています。
例として、下図にある右端の歯を左に動かすことを考えてみましょう。
歯に左方向の力をかけた場合、一旦は傾斜しますが、ワイヤーが傾斜に合わせて変形し、立て直す力がかかります。その結果、あたかも歯がワイヤーの上を滑るように全体が平行移動するような動きができるのです。
ブラケットには歯の表面に対して垂直な四角い溝がついており、溝とぴったりとかたちの合うワイヤーを入れることでねじれの力を発生させ、歯根を動かす力とすることもできます。これを応用すれば、傾きを調整しながら前歯を後方に移動させることが可能になります。
こうした歯の移動は取り外式の装置では難しいものです。治療の質を優先するため当院では原則すべての症例でブラケットの装置を使用して治療にあたっています。